『moraトピックス』に弊社代表取締役若松宗雄のインタビュー記事が掲載
弊社代表取締役の若松が『moraトピックス』に取材され、インタビュー記事が掲載されました。
以下『moraトピックス』ページ
松田聖子を発掘した名プロデューサー、若松宗雄氏にインタビュー! レコーディング秘話を語る!
松田聖子を発掘した名プロデューサー、若松宗雄氏にインタビュー! レコーディング秘話を語る!
mora (2015年1月15日 19:15)
松田聖子の1st『SQUALL』から5th『Pineapple』までのオリジナル・アルバム、およびバラードベスト『Seiko Matsuda Best Ballad』がハイレゾ音源(96kHz/24bit:FLAC)でリリースされた。本サイトでもチャートを席巻しているが、今回、松田聖子を発掘し、一時代を作ったプロデューサー若松宗雄氏にインタビュー。ハイレゾ化された音源を実際に聴きながら、豪華制作陣が参加する当時の貴重なレコーディング秘話を訊いた。
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「聖子の特性がわかる」ハイレゾ音源を聴いてみた
――まず、気になる曲から聴いていただきたいと思います。
若松 個人的にはそうだね。デビュー曲「裸足の季節」か「赤いスイートピー」かな。『Pineapple』の中からだと「渚のバルコニー」と「ひまわりの丘」にしようか。(「渚のバルコニー」「ひまわりの丘」を聴く)
――いかがですか?
若松 すごい音だね。強力。すごくクリアで迫力があるし、イメージが強く伝わってくるね。音楽って部屋の中で聴いていても波の音とか風の声とか感じるじゃない。そういう景色や匂いが、部屋の扉が開いて一気に広がっていく感じかな。聖子の声も、より魅力的ですよね。伸びやかだし生々しい。彼女の持っている特性が出ている。
――もともと持っている特性ということですか?
若松 そう。もともと持っているもの。松田聖子の一番の特徴というと声の強さと質感と、あとは知性と品っていうのかな。それはデビュー前から持っていたもので、そういう特性がより強調されている感じがしますね。
――続いてデビュー曲を。(「裸足の季節」を聴く) 最後、エクボ?の部分は、声がCDよりもクリアになっていますよね。
若松 メリハリとかエッジが効いているね。息づかいまで聴こえてきそうな(笑)。声もデビュー曲だから、よりフレッシュで臨場感がある。日本屈指のレコーディングエンジニアが「売れる」とつぶやいた初レコーディング
――この「裸足の季節」が、聖子さんの最初のレコーディングですよね?
若松 そうですね。この曲はオケ録りの時に彼女を呼んで、オケを録りながら別室で歌わせたんですよ。聖子はメロディを一度聴いただけで、ほとんど憶えちゃったね。「この子スゴいな!」って思いましたよ。ミックスは内沼映二さん(ミキサーズラボ)でしたが、ミックスダウンを終えた時に「若松さん、この子売れるかもしれないね」ってポツリと言ったことが印象的でしたね。当時、聖子の同期はたくさんいたし、新人の中の一人だったのにね。
――飛び抜けて光るものがあったんですね。
若松 当時の新譜会議で販売推進のチームに「こんなにスゴいなら、なんでもっと早く情報くれなかったんですか」って文句を言われたこともあるよ。「この子はスゴイって言ってただろう。みんな聞いてなかっただけじゃないか」って(笑)。
――それが時代を象徴するスターになるわけですからね。そのヒットを支えた要素のひとつが豪華な作家陣だと思うのですが、聖子さんはシングル曲だけでなくアルバムにも名曲が多いですよね。
若松 彼女は感受性が強くて表現力がとにかく豊かだったから、どんな作家の作品でも自分なりに歌う能力があってね。彼女の魅力が話題になってくると、作詞家、作曲家、アレンジャーも含めて、提供したいって声がどんどん出てきたんですよ。だから自ずといい作品が集まってきた。
――スターとしての吸引力があったんですね。
若松 そう。聖子は聖子の匂いがあるし、松本隆さんとか三浦徳子さんの歌詞にもそれぞれの匂いがあって、メロディもそう。そして大村雅朗さんという天才アレンジャーがいて、結果として、いろんなことがプラスに作用していった。それでアルバムの曲がどれもシングル候補になれるクオリティになったんですよね。インタビューの様子。(イラスト:牧野良幸)
大瀧詠一作曲・編曲(多羅尾伴内名義)「風立ちぬ」の制作秘話
若松 大瀧詠一さんとは「風立ちぬ」で一緒にやったんだけど、大作に仕上がってしまいましたね。わたしは、堀辰雄さんの小説「風立ちぬ」が大好きだったから、大げさな感じがして。大瀧さんらしいというとそうなんだけどね。
――名曲の誉れが高い曲ですが、そうだったんですか。ちょっと聴いてみましょうか。(「風立ちぬ」を聴く)
若松 ハイレゾで聴くとすごい!いいねー!!こういうハイレゾのサウンドだと大瀧さんのサウンドが生きてくるね。
――気に入っていただけてよかった(笑)。「風立ちぬ」をはじめ、聖子さんの作品はソニーの最高峰の環境で録音していて、音作りの評価も高かったようですね。
若松 信濃町のスタジオだったけど、オーディオに興味ある人はそうだったでしょうね。スタジオミュージシャンも当時のトップミュージシャンでしたしね。
――だからこそハイレゾにふさわしい音源と言えますよね。「風立ちぬ」の制作秘話も気になりますが。
若松 「風立ちぬ」は時間がかかってね。最初にリズムから録るんだけど、遅いスタートで21?22時くらいからだったかな。リズムは大体1時間くらいで録れるものなんだけど、大瀧さんがなかなかOK出さないの。リズムだけで2時間、2時間半とか。でもそれだけ作品作りに力をそそいでいたんだろうね。
――傍目には、どこかが違うのかわからないっていう。
若松 自分の中にこだわりがあるんだろうね。それと松本さんと大瀧さんがとってもいいんだよね。だから、大瀧さん自身のアルバムにも松本さんが詞を書いているでしょう。
――才能を認めあっていらっしゃったんですね。レコーディング当時よりスゴい!?ユーミン作曲「赤いスイートピー」
若松 ヒットする曲って、大体、ある瞬間にひらめいたものなんだよね。考えて作ると音楽的には立派になるだろうけど、理が立てば娯楽は後ろにいく。娯楽が前に立たないとヒット曲って絶対生まれないから。ロックでも演歌でも同じで、娯楽が前にくるにはパーフェクトに作るとダメなの。だから、聖子のボーカルも歌い始めて憶えさせるまで3?5回。できるだけ練習しないように、間際になるまで曲を渡さなかった。彼女は本番も強かったしね。
――では、あまり煮詰まるようなことはなかった?
若松 そう、6回も7回も録ることはなかったよ。「赤いスイートピー」なんかは、多くの方々から支持されている聖子の代表曲なんだけど、すんなり録れてしまいましたね。
若松 実は「赤いスイートピー」は曲も覚えやすくて、とても素敵なメロディラインですよね。ユーミン(呉田軽穂名義)に書いてもらったんですけどね。I will follow you?のところ、メロディが上がってるでしょう。最初は下がっていたんですよ。春の歌だし、どうも気分的に下がるとよくないなと。ユーミンは超多忙だったからコンサートのリハーサル会場にまでいって「気分としてアゲてくれますかね」って。
――なかなか言いにくいですよね。
若松 ユーミンにも言われたんですけど「わたし、直してって言われたことないです」って(笑)。「すみません」って謝ったら「攻めてるんじゃなくて参考になった」と言ってくれて。その後、ユーミンは原田知世さんに提供した「時をかける少女」が1位になったんですけど、「おかげさまで1等賞とりました」って電話があってね。この一言でユーミンの才能と人間性にほれてしまいましたね。
――では、「赤いスイートピー」を。(同曲を聴く) ハイレゾというと、レコーディングスタジオで鳴っているマスター音源の感触があると言われますが、当時を思い浮かべてみていかがでしょう?
若松 当時よりも、スゴいよ。こうやって聴いてるとまた楽しみ方が別格ですね(笑)。レコーディングしている時って意外と地味だからね。気持ちが日陰になっていないとうまくいかない。現場が華やかで、作品づくりは気持ちが浮いた状態だとダメなんですよ。
――そうやって、1年にアルバムを2枚、シングルを3カ月に1回で4枚と、作られていったという。現在のリリーススパンでは考えられませんが。
若松 それでも、聖子は常に感覚がシャープでしたよ。音楽が分からなくても、自分なりに吸収する勘のよさが天才的にあった。それに度胸があるからね。それってスターになる条件だよね。度胸がないと勝負には勝てない。デビューの時も、テレビの現場にも付き合ったけど、本番10分くらい前になって、スッと私の横に来て、「若松さん心配しないで。今日、わたし大丈夫だから」って言うんですよ。大したもんですよ。マーケティングなし!?「明菜ちゃんも意識したことはなかった」
――若松さんは総合プロデューサーとして、聖子さんをどのように売っていこうとしたんでしょうか?
若松 聖子の声質と色合いが大好きで、そこは誰にも負けないと思っていたから、あとは一過性のもので終わらないよう、音楽的にもクオリティーと娯楽性を高める工夫はいつもしていましたね。そのためにも優れた作家陣に書いてもらって……。
――アイドル+音楽性を具現化したわけですね。
若松 なんでしょうね。わたしは永ちゃん(矢沢永吉)をずっとアイドル的だなと感じていたんですよ。それはね、エンターテイナーとしての振る舞いとか、歌い方、表現……ひとを楽しませる要素を全て持っているなって。そこで、できれば音楽よりも、「この子スゴイなー!」って印象の方が残るような。それこそが娯楽なんですよね。
――なるほど。ニューミュージックという言葉が出てきていて、それを利用しようとか、他の方がやっていないことをやろうという意識は?
若松 うーん、利用というような意図的なものではなかったよね。結果的にそうなったのかもしれないけど、すべては自分の直感だから。ただひたすら彼女の特性を出したい。それだけですね。
――ライバルと言われていた中森明菜さんを意識したマーケティングなどは?
若松 それもないですね。わたしは聖子の最大限のよさを出しておけば、結果大丈夫だと思っていたから、明菜ちゃんがライバルだからとか意識したことはなかったね。誰かを意識する、競争するということがなかったし、世の中でこういう歌が流行ってるから同じ傾向の曲を作ろうとかも全くない。意外とすんなりと作ってましたよ。ひらめきでしたから(笑)。
――よくわかりました……ちなみに縦のラインで南沙織、天地真理、キャンディーズ、山口百恵というCBSソニーのアイドルの流れを意識したこともなく?
若松 それもない。ひたすら彼女の特性。聖子の持ち味の特性として春夏秋冬といういつも季節感を出しているところですかね。……それと、作詞家、作曲家、アレンジャー、関わってくれたみんなも同じ方向をめざいしてがんばってくれてましたね
――意識されていなくても、ハイレゾ化された初期5枚のアルバムを聴くと、時代の空気感まで感じられますからね。
若松 その空気感というのもね、狙ってないからだろうね……ミュージシャン方々もこの音聴いたら感動しちゃうだろうね。知っちゃったら、普通のやつ聴けないよ。音楽の聴き方も変わってくるかもしれないね。圧縮した音源しか聴いてきてない子たちにも、この音に気付いてもらえたらいいね。こういう音を感じると音楽だけじゃなくて、感動するということを憶えるよね。そうすると、人に対する優しさとか思いやりだとか、そういうものが深くなるよね。世の中って何かのきっかけで動いていくから、ハイレゾがきっかけになるといいね。【プロフィール】
若松宗雄
福島県いわき市生まれ。慶応義塾大学卒業後、CBS・ソニーレコード(現、ソニー・ミュージックエンタテインメント)、CSアーティスツ(現ソニー・ミュージックアーティスツ)社長を経て、エスプロ社長。松田聖子のプロデューサーとして、発掘から『Strawberry Time』まで担当する。曲タイトル「裸足の季節」「青い珊瑚礁」「風立ちぬ」「赤いスイートピー」「渚のバルコニー」「白いパラソル」「ピンクのモーツアルト」などは、同氏によるもの。古城久美子(インタビュー)
福岡・AI VISION PRESS編集長を経て、10年に上京し、現在フリーのエディター・ライター。『横浜ウォーカー』のアーティスト連載、『81JAPAN』『ぴあSpecial Issue ザ・ローリング・ストーンズ来日記念特別号』ほか牧野良幸(イラスト)
※mora (2015年1月15日 19:15)
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、 イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。 近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『牧野式高音質生活のすゝめ』などを出版。
2015.01.15